■第一話 金魚倶楽部とカプチーノ

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 馴染みのお客様たちからのおすそ分けがなければ、渉はとうに生活できなくなっていただろうし、律義に代金を置いていってくれる源蔵さんらがいなければ、この店だって早い段階で畳むことになっていたかもしれない。  彼らを当てにしているというわけでは、けしてないけれど、頼りきってしまっているなという自覚は、ずいぶん前からある。  何かお礼をしなければと常々思っているが、それもどうしたらいいのやら……。  いや、思考が少し脱線してしまった。 「どうですか? カプチーノ、美味しく感じられるようになってきました?」  気を取り直して尋ねると、文香さんは手帳の上に置いた写真を愛おしそうに撫で、 「はい。だいぶ」  と笑った。  話しはじめるまではずいぶん思い詰めた顔をしていたけれど、なんの後腐れもない渉に話したおかげで、少しずつ表情が明るくなってきているようだった。  ここに訪れる人の中には、ある程度自分の中で答えを出して来る人も多い。  何かの本で読んだことがある。  口に出した時点で、それはもう〝答え〟になっているのだと。
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