■第一話 金魚倶楽部とカプチーノ

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 隣で俯いている文香さんに穏やかな声で尋ねた。  野乃の考えは、こういったものだった。  大学時代から文香さんのことが好きだった彼――上尾(あげお)良介(りょうすけ)さんというらしい――は、その想いを伝えられないまま卒業となり、今に至る。  仲のいいサークルだったということなので、連絡はけっこうマメに取り合っていたと仮定すると、そのうち文香さんが金魚鉢の彼を好きになったこと知る機会は、そんなに遅くはなかったはずだという。  そこで、大学時代最後の飲み会の席でふざけ半分で決めた〝金魚が三年後まで生きていたら、その人同士は結婚する〟というおかしな約束事が効いてくる。  なかなか自分の想いを告げられない上尾さんは、文香さんがほかの人に恋をしていることもあって、一か八か、それに賭けたのだ。  自分の金魚を長生きさせて、もし文香さんの金魚も生きていたら、そのときは金魚の力を借りてちゃんと告白を――と。  でも、上尾さんの金魚も文香さんの金魚も三年後までは生きられず、文香さんは金魚鉢の彼に失恋してしまった。
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