■第二話 エスプレッソにはスプーン一杯の砂糖を

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 ここにエスプレッソでもあればさらに最高だな、などと贅沢にも渉はそんなことを考える。  言ったら野乃は「そんなの気にしませんよ」と言うとは思うけれど、慌ただしく学校の準備をする野乃の近くで渉だけのんびりとエスプレッソを飲んでいるなんて、やっぱりなんだか気が引けてしまうのだ。 「ごちそうさまでした。食器、水に浸けておきますね」 「うん、ありがとう」  しばらくして、綺麗に完食した野乃が皿やコップを手に先に席を立った。渉はまだ二枚目の食パンだ。  自分ではそうは思っていなかったが、どうやら渉は男性にしては食べるスピードが遅めらしい。実は渉は少し低血圧気味で朝はスロースターターなのだ。  以前、源蔵さんに「細っそい」と言われたのはそのせいもあるのだろう。  野乃がここで下宿をはじめる前も決まった時間に起きて朝食、昼食、晩ご飯と毎日三食しっかり食べていたのだけれど、肉付きは微妙である。よく食べているのに、なんだか申し訳ない。  それはそうと、ニ十分もしないうちにいったん二階へ引き上げた野乃がトントンと軽快に階段を下りてきた。髪はきちんと整えられ、制服も鞄も準備万端の様子だ。
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