■第二話 エスプレッソにはスプーン一杯の砂糖を

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 やがて開店時間の十時が近づいてくると、渉は店の表に【恋し浜珈琲店】とだけ書かれた小さな立て看板を置いた。  ドア横に掛けた【close】の札を裏返し【open】にするのも、もうすっかり習慣になっているので、月末月曜の定休日でもついいつもの習慣でうっかり【open】にしてしまいそうになったりする。  ……店の鍵は開いていないのに。 「ふっ」  そんなことを思い出していると、つい笑ってしまった。口元に緩く握った拳を当て、くくっと笑い声を噛み殺す。  なんだか、野乃が来てからというもの、昔の記憶だったり印象に残っていることだったりが、ふとした瞬間に思い出されることが増えたように思う。  一人で店をやっていると、良くも悪くも決まりきったルーティンを淡々とこなすようになってしまう。それはとても気楽だったけれど、ときにはやはり寂しさが募ることもあった。  叔父夫婦が強引に野乃の転校手続きをしてくれたおかげで、そんな日々の生活に張りが出てきたのだ。  お客様以外の人を――野乃をこうして気遣えることが、今は幸せだ。
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