■第二話 エスプレッソにはスプーン一杯の砂糖を

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「かしこまりました。少々お待ちください」  まず先に水をお持ちして、それから改めてエスプレッソを淹れはじめる。  水のグラスを持っていった際、彼女からはふわりと森林系というか、ウッディな香りがして、渉は落ち着くいい香りだなと思う。  香水にはとんと疎い……それ以前に、男女問わずファッションや髪型にも驚くほど疎い渉だけれど、これは男性用の香水なんだろうか。  女性がつけるにしては飾り気のない香りに、クールで格好いいという彼女のイメージが上塗りされる。  余談だが、前下がりショートボブやクールビューティーなどの言葉は、野乃が読んだまま忘れて部屋に持って上がらなかった彼女の雑誌から、つい最近学習した。  渉個人の性格のせいもあるのだろうけれど、男一人の生活では最近の若い子のファッションに鈍感になってしまうのも無理はない、といったところだろうか。  思い出して雑誌を取りにきた野乃に「……そういうの読むんですね」と驚かれたのは三日ほど前の出来事である。  それはともかく。 「お待たせいたしました、エスプレッソでございます」
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