■第二話 エスプレッソにはスプーン一杯の砂糖を

8/68
前へ
/266ページ
次へ
 エスプレッソ用の豆を細く挽き、適度に圧をかけて抽出したそれを銀盆に乗せて持っていく。  小ぶりのカップの中ではコーヒーの上にとろりとした泡が蓋をしていて、それもあって渉の中では〝ふわふわしたコーヒー〟というイメージが強かったりする。もっとも、エスプレッソは濃いので、見た目ほど味はふわふわとはしていないけれど。 「あ、ありがとうございます」  軽く頭を下げた彼女に一礼し、渉はカウンターの中へ引っ込む。使ったコーヒー豆やエスプレッソマシンの手入れを終えると、さっそく読書の続きに取りかかる。 「あの、これいいですか?」  声をかけられ「はい?」と顔を上げると、彼女が気まずそうにシガレットケースを手にしていた。これも女性が持つにしては渋い茶革製のケースで、少し離れたところにいる渉にも、なかなかに年季が入っているものだということが窺えた。  各テーブルに灰皿は置いていないので、彼女の表情からは、禁煙なのはわかっているけれど、という声が聞こえてくるようだった。  どうやら彼女は愛煙家らしい。渉は吸わないのでよくわからないが、コーヒーと煙草のセットはどういうわけか合うというのが源蔵さんの持論だ。
/266ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加