■第二話 エスプレッソにはスプーン一杯の砂糖を

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 体に悪いからと奥さんの幹恵さんや元樹君に何度となく言われているそうだけれど、ついつい家でやってしまい、また怒られるのが常なのだという。 「申し訳ございません。小さいお子さん連れのお客様もいらっしゃるので、誠に勝手ながら、店内禁煙とさせていただいているんです」 「あ、いえ。そんな謝んないでください。ちょっと言ってみただけですから」  渉が心底申し訳ない顔をしているせいか、彼女は焦ったように顔の前でパタパタと手を振り、愛想笑いを浮かべながらシガレットケースを鞄に戻す。  店内禁煙です、とあらかじめ店の表に表記していない渉が悪いのだから、そんな顔をされると逆に渉のほうこそ申し訳なくなってくる。  しかし喫煙スペースを設けるとなると、店の中にそれ用のドアを新しく取り付けたり空調を整備したりという設備面での費用がかさんでしまう。  恋し浜珈琲店の売り上げは渉と野乃が細々と食べていける程度のものだ。  おすそ分けで賄っている部分も多いので、本当に心苦しいが彼女にはしばし我慢してもらうしかない。 「……じゃあ、代わりと言ってはあれですけど、私の話、聞いてくれません?」
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