■第二話 エスプレッソにはスプーン一杯の砂糖を

10/68
前へ
/266ページ
次へ
 すると、彼女がそう言った。小さく小首をかしげ、頬杖をついて渉を見る。 「偶然見た誰かのブログでここのことが書いてあって。失恋を美味しく淹れてくれるってあったから、ちょうどよかったし来てみることにしたんです」  彼女――一井(いちい)珠希(たまき)さんは、美容師さんなのだそうだ。  専門学校を卒業し、なんとかヘアーサロンに就職が叶い、今は二年目の二十四歳なのだという。 「専門学校に入学したのが二十歳のときで。……高校の頃はちょっとやんちゃしてたっていうか、まあ、平たく言うとよく学校をサボってガラの悪い友達と遊んでたんですけど、高三のときの担任が、私が髪の毛をいじるのが好きそうだからって、そっちの道に進んだらどうだって言ってくれたんですよ。実際、自分の髪も人の髪もアレンジするのが好きだったし、漠然とですけど、美容系の仕事に憧れも持ってました。友達にも親にも口に出して言ったことはありませんでしたけど、そういうのってわかるんですね。あの担任、けっこう鋭いっていうか、落ちこぼれの私みたいな生徒のこともちゃんと見てくれてて」
/266ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加