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「そう、期待。今もこうやってわざわざ話に付き合ってくれてるでしょ?」
「これは、その…」
ちょっと返事に口ごもる。最初はそんなつもりは無かった。図書室の一件があまりに想像しなかった幕切れだったので呆然としている間に声をかけられて、なんとなく来てしまっただけだ。今は来てよかったと思ってるけど。
「まぁあとは、怒ってるとこ無理矢理割り込んじゃったからさぁ、お詫びに甘いものでも奢ろうかなと思って」
「あはは…もしかして女の子誘うの手馴れてます?」
「まさかぁ、初めてだよ」
間ができた。
えっ、と視線を上げると、風巻先輩が豆鉄砲を食らった鳩のような顔でこちらを見ていた。私と目が合うと、我に返ったように顔を赤くしてすすすっと視線を落とし、無言でパンケーキの残りを片付ける。
待って。待って待って待って。ちょっとなに今の反応。えっ。可愛い。そうじゃなくて。初めて誘ったって。なんだか普通に話してましたけど、っていうかお説教されましたけど。私が初めて?誰でもじゃなくて。もしかして機会を伺ってたんです?それできっかけもあったし声かけちゃったってこと? それってつまり今この場で両片思い…。
「なにかお持ちしましょうか」
「にゃああああっ!?」
いつの間にか真横に立っていたメイドさんに不意をつくように声をかけられて、思わず奇声を発してしまった。先輩が「大丈夫です」と小さく伝えると、彼女は別段気を悪くした様子も無く一礼して去っていく。
ああびっくりした。我に返ると風巻先輩も同じ気持ちだったようで、ふたりで顔を見合わせてくすくすと笑い合う。くだらないことなんだけど、それもなんだか楽しい。
「そろそろ出ようか」
「そうですね」
お会計を済ませて(奢って貰ってしまった)表に出ると、もうすっかり陽が暮れていた。ママに連絡を入れておかないとお小言を言われそうだ。
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