図書室とぷうさんと私

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「石島さん、注意はもう少し声を落として…出来たら近くまで行ってからさぁ」  図書室内に今日も気まずい空気を醸成して受付に戻った私を迎えたのは、私よりもさらに頭ひとつ以上大きい男子生徒。  彼、風巻久(かざまきひさし)先輩は私よりひとつ上の三年生。  身長195cm、体重145kg。ずんぐりした巨体の温和な人柄であだ名はぷうさん。 「わかってますけどつい言っちゃうんですよね。それに彼だって悪いと思いません?」 「それはもちろんそうだけどさぁ」  私たちの会話の大半はこんなものだ。お互いあまりしゃべるほうではないし、こうやって私がたしなめられたり愚痴ったりする以外ではせいぜい図書委員として仕事の話をする程度。  図書委員は全員持ち回りで受付や本の整理をしているが、金曜日は私と彼の当番になっている。彼ののんびりとした気性はときどき反りの合わないものを感じはしたけど、それでも私より大きい男子というのはありがたかった。彼の隣でなら、私も多少は女の子らしく見えるのではないだろうか。 「むしろ風巻先輩はもっとびしっと言ってもいいんじゃないかと思いますけどね。下級生になめられてるんじゃないですか?」  じろりと横目に見ると彼は肩と首を竦めて返事代わりの愛想笑いを浮かべた。私もそれ以上は言わず、返却されてきた本の整理に手を付ける。 「そんでよー」 「おま、ばっかじゃねーの」  束の間もなく耳に入る話し声。振り返ると三年生と思しき男子生徒4人組が受付から離れた窓際のテーブルで本を開くでもなく雑談に興じていた。 カッと血が上ることを自覚するより口に出るほうが早い。 「そこの男子、図書室では静かにっ」
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