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強過ぎたかな?と、一瞬くらいは私も思う。でも私に非があるわけじゃない。
「なんだアイツ」
「知らね」
「うっせーんだよほっとけ」
それ以上はなにも、なんの音も聞こえなかった。私は頭に血がのぼるといつもそうだ。反射でそのテーブルに近づいていた。男子生徒4人を見下ろして言う。
「うっせーじゃないわ!アンタたちがうるさいのよ、本読まないなら出てけっ」
目の前の男子たちが色めき立つ。口々に何か喚いているようだけど、耳を貸さずに畳み掛ける。
「ここはアンタたちみたいな連中の溜まり場じゃないのよ!」
一番手前に居た男子生徒が私の襟首を掴んだ。振り放そうとするけどびくともしない。それどころか逆に私のほうがよろけてしまう。
当たり前だ。
私はひとよりちょっと視線の位置が高いだけ。ただ大きいだけの女だ。相手より背が高いからといって力があるわけでもない。ましてや年上の男子生徒にかなうわけなんて、微塵もない。
制服の襟を掴んでいる男子生徒の、空いている方の手が握りこぶしを作って引き絞られたのが見えて咄嗟に目を閉じた。首を竦めてぐっと歯を食いしばる。
だけど次の瞬間に来るだろうと想像した衝撃は無く、代わりに乾いた肌を叩く音が聞こえただけだった。もちろん、そして予想外だけど、殴られたのは私の顔じゃない。
恐る恐る目を開くと、太くて大きな手が、男子生徒のこぶしを遮っていた。
ぬっ、と、私から見ても大きな身体が間に割って入る。風巻先輩だと気付くのに少しかかった。
「図書室だしさぁ、悪いんだけど。頼むよ」
いつも通りののんびりとした口調。だけど、そこに「お願い」のニュアンスは無い。
先輩は振り返って私を見るとやはりいつも通りの口調で「石島さんも、先輩に向かってアンタなんて言っちゃだめだよ」と続ける。そこに、いつものなだめるようなニュアンスは無い。
その静かな迫力に、当事者の誰も異論を唱えられない。
それからの図書室はとても静かで。なにごとも無くその日は閉館した。
「石島さん、このあと暇?」
戸締りのあと、風巻先輩に声をかけられたのは初めてだった。
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