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今は誘われるままに訪れた小さな喫茶店で、向かい合って座っている。私はフルーツオレ、先輩はいちごのパンケーキを注文した。
これから夕飯なのでは?という私の疑問は口にするまでもなく。
「普段は部活があるからさぁ、この時間になるとお腹が空いちゃうんだよね」
「柔道部なんでしたっけ」
「うん。金曜日だけは休みを貰って委員会に出てるんだ。俺は図書委員一本にしたかったんだけど、顧問の先生がどうしてもって言うからさぁ」
運動部と委員会を兼任している生徒は珍しいが、その疑問も聞くまでもなく開示された。
「本、好きなんですね」
思ったことは柔道は好きじゃないんですか、だったのだけど。踏み込むみたいで聞けなかった。
「そうだね。文芸部に入ろうかとも思ったんだけど…ちょっと苦手なひとがいてさぁ」
「ああ…部長は結構クセのあるひとらしいですね」
私も去年のクラブ紹介で見かけたので覚えている。理屈っぽくてめんどくさそうな感じのひとだったのですぐに思い当たった。
「そうそう、彼女が苦手でさぁ。悪いひとじゃないと思うんだけどね。まぁ柔道は中学のころもやってたし、そんなこんなで、さぁ」
普段の風巻先輩なら、確かにそうかも知れない。だけど…。
「お待たせしました。いちごのパンケーキとフルーツオレです。ごゆっくりどうぞ」
小柄で色白で無表情でクラシカルなメイドさんが注文の品を置いていった。 メイド服、私には似合わないだろうな。
「なんでそんなに気弱なんです?さっきはあんなにしゃきっとしてたのに」
さっきとはもちろん図書室で仲裁に入られたときのことだ。あのときは相手の男子生徒も、普段なら口答えのひとつもするであろう私も、誰も何も言えなかった。ひとつの挙動、ひとつの言葉に、有無を言わせぬ迫力があった。
「うぅん」
だけど今の彼はどうだろう。目の前で言い淀みながらパンケーキをつついているのはいつもののんびりしたぷうさんだ。彼はしばらくもじもじと言い淀んでから、ここだけの話だけど、と断りを入れた。
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