図書室とぷうさんと私

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「いざってとき手を出せる状況は簡単だからさぁ」  最初なにを言っているのかピンとこなかった。それを察したのか風巻先輩が続ける。 「さっきみたいなときは相手も男子だし、先に手を出されてるからちょっとくらい強く出て揉めてもいいんだよね。俺は殴られても平気だし、相手は俺に殴られて平気ってことは無いし、そうするとだいたいそこで折れてくれるからさぁ」  内緒だよ?と言われても、心配されるまでもなくとてもひとに言えるような内容では無かった。のんびりした大人しいマスコットみたいだと思っていたひとが、実はその大人しさが暴力への絶対的な自信に裏付けられていたなんて。 「でも手を出して来ない相手はそうもいかないでしょ。俺って口達者なほうじゃないしさぁ」 「意外と、その…意外です…」  適当な言葉が浮かんでこず、ただどうにか気持ちだけを口にした。 「そうかなぁ」 「そうですよ。私のイメージとずいぶん違います」  風巻先輩がきょとんとした顔でじっとこちらを見ていた。パンケーキを食べる手と口だけが動いている。思わず見返して手を止めてしまった私に、彼は首を傾げて聞いた。 「ちなみに石島さんから見た俺ってさぁ、どんなイメージだったの?」 「え、えっと…なんかおっとりというか、ふわっというか、その、ぬいぐるみのくまさんみたいな?」 「ははは、そりゃ可愛いなぁ。まぁ、あだ名もぷうさんだしわからなくもないけど」  少し顔を赤らめて照れ隠しのように笑った風巻先輩はどちらかと言えばイメージ通りの雰囲気で。 「可愛い」  無意識のうちにぽろりと口を突いて出ていた。ぽかんとした一瞬の間を置いて、風巻先輩がさっと顔を赤らめて視線を逸らす。 「いやぁ、面と向かって言われると、ちょっと照れるなぁ」 「す、すみません…」  無性に恥ずかしくなって私も下を向く。妙な空気になってしまった。そんなつもりじゃなかったのに。  そんなつもりじゃなかったのに、とは思いながらもちらりと彼のほうを見る。  ちょっと口下手だけど話せば気さくな先輩。私みたいな大きくて口やかましいだけの女にも嫌な顔をしないしいざとなれば身を呈して守ってくれる気概もある。  見た目は大振りだけどそこそこ整った優しい顔立ち、太めとはいえ鍛えられた逞しい体格、そして私より背が高い!(超重要)  悪くない。むしろ良いのでは?先輩だって今日も声をかけてくれたあたり、そんなに私のこと悪く思っては…。  そこまで考えてふっと思い出す。そういえばどうして声をかけられたのだろう。もちろん図書室での騒ぎがあったからだろうけど。
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