図書室とぷうさんと私

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「あの、えっと…話がだいぶ逸れましたけど、私になにか話があったんじゃ」  おずおずと切り出すと、風巻先輩が視線を戻して頷く。 「そうそう。今日のことでちょっとね。石島さんが悪いってわけじゃないんだけどさぁ」  さっきまでとは打って変わって神妙な声色に浮ついた気分が冷めていく。 「たとえ相手が悪くても、先輩に対してアンタとか言っちゃいけないよ」 「ぐっ…それはそうですけど…」 「別に相手に敬意をとかいうだけの話じゃなくてさぁ。きちんとそういうところに折り目を付けるのは、石島さんが礼儀をわきまえて行動できるひとだって周りに見せることでもあるんだからね」 「ぐぬぬ…」  いつもの私だったらカッとなって激しく反発していたと思う。だけど今はそんな気分にはならなかった。代わりになんだか恥ずかしいような悔しいような、言い知れない気持ちがじわりと胸に広がる。  気分を紛らわせるようにフルーツオレをすするけれど味がしない。気付くといつの間にか無くなっていた。 「なにかお持ちしましょうか」 「っ!?大丈夫です!!」  いつの間にか真横に立っていたメイドさんに不意をつくように声をかけられて、つい強く返してしまう。しまった、と思ったけど、彼女は別段気を悪くした様子も無く一礼して去っていった。私だったらとてもああはいかない。  気まずい気持ちで空になったグラスへ視線を落とし、それから上目遣いに風巻先輩を見る。彼は言うこと言ってスッキリしたのか、けろりとした顔でパンケーキを食べていた。なんだか釈然としない気持ちだ。 「ようするに、お説教に呼び出されたんですね…」  つい口にしてしまった言葉は落胆と、ずいぶんと拗ねた響きがあった。 「うーん、お説教かぁ」  風巻先輩は歯切れの悪い感じで呻きながら少し思案する。 「いや、敢えて言うなら、俺は君に期待してるんだと思う。こうあって欲しいって」  期待。その言葉にはあまり良い印象がない。私はこの大きいだけの身体で多くの期待を集めて、それに答えられない私に非があるかのように失望され続けてきた。印象は悪いどころかはっきり忌々しい言葉だと言っても良かった。 「…期待、ですか」  でも、今は嫌じゃなかった。私に期待してくれるのなら、彼の期待に応えたいと思った。
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