猫の本懐

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ではネズミはどこにいたのか。思い当たったのは物置。鏡餅落下事件の少し前に入った時、強い臭気を感じた。その時はあまり気に留めずにいたのだが、あれはネズミのおしっこだったのかも。早速物置に行ってみると、やはり強い臭気。そして、隅っこの床に古新聞が細かく裂かれて床に散らばっているのを発見。あ、ここを巣にしていたのだ! それにしても、ネズミがどこから我が家へやってきたのか、疑問が解けない。さらに見渡すと乾燥水苔の袋が目に入った。これだ、これに違いない。 母の姉、私にとっての伯母が亡くなり、私がその家の片付けを引き受けたのだが、その中から使えるものをこちらへ運び込んでおいた。そのひとつが乾燥水苔である。水でふやかして観葉植物の鉢土に敷く園芸用品で、ふかふかしている。伯母の家ではよくネズミが出没していたと聞いたことがあったから、彼らはこの中を住処にしており、私はそうと知らずに運び込んでいたというわけである。 しかしながら、猫がいるのに、なぜネズミが我が物顔で動き回っているのか。完全に猫の権威が失墜しているではないか。 平成生まれのイチローは栄養満点のキャットフードを食べ、温かい寝床でぬくぬくと太平の世を謳歌して、野性本能が薄まってしまったのに違いない。 早速イチローをネズミが出たキッチンに連れてくる。都合よくネズミがキッチンの床を走った。「あれっ、何だ?」。イチローは目を大きく見開き、凝視するが棒立ちのまま。しばらくしてまた1匹走る。今度は爪を出した手をチョイチョイと出したが、ネズミの勝ち。イチロー、ネズミが走り去った方向へ向かい見張りの態勢をとるが、時間だけが空しく経っていった。 私は猫友にこの憂うる事態を嘆いた。彼女は、 「うちでも以前ネズミが出たのよ、猫がいるのに。近頃の家猫は完全に狩りの本能を無くしているわね。それで、夜、私たちと一緒に寝ようとやってきた猫に言ったの。アンタは猫でしょ、ネズミを何とかしたらって」。 「それで、どうなったの」 「びっくりしたわ。その夜中、キッチンでバタンバタンと音がしたので行ってみると、猫がいたの。もうネズミには逃げられた後のようだったけど、一応戦ったみたい。ああ、私の話をちゃんと聞いてたんだと思ったわ」
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