猫の本懐

2/4
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 亡くなった母は猫や犬をはじめ、大の動物好きだった。 一方、戦後すぐに見合い結婚した父の家では飼ったことがなく、嫁いだばかりの母は遠慮があり、飼いたい気持ちを言い出せないでいた。 ところが、当時はどこの家でもネズミに悩まされていて、米や野菜が食べられ、漆喰の壁に穴をあけられ、夜は天井裏で大運動会である。そこで母は姑に直訴した。 「これはもう猫の力を借りるしかありません!」 昭和23年に初代猫が来て以来、我が家にネズミがいたことはなかった。 うちにいた猫も犬もすべて捨てられさまよっていたものたちであるが、イチローも母猫が我が家にたどり着いて産んだ1匹である。イケメンとは言い難かったが、穏やかな性格が取り柄だった。それは裏を返せば、臆病で喧嘩に弱かった。喧嘩の最中を目撃したことがあるが、やたら大声で相手を威嚇しているばかり。「大声を出すのは弱い証拠よ」と猫歴の長い母はそう言って笑っていた。案の定、ほとんど負け戦で、相手が意気揚々と引き揚げたのを十分確認してから、尻尾を下げてこそこそと帰ってくる。負けたショックと疲れからか、ご飯も食べずにひたすら眠るイチローは情けなかった。 イチロー 15歳のお正 月のことだった。 母は病に倒れ、ベッド生活になっていた。ある朝、私が部屋に入ると、ベッドの上のほうにある神棚から鏡餅が床に落ちて割れているのを発見した。多分、何かの振動で落ちたのだろう。そう思って拾いあげると、その割れ方がとても不自然に見えた。どう見てもに何かにかじられた形である。 「えっ、まさかネズミ?わけないよね、イチローがいるんだから」と私。猫がいれば、その鳴き声や体臭でネズミが寄り付かないと聞いていたからだ。 しかし、その後、私はキッチンで走るネズミを目撃した。間違いない、確実にいる! でも、なぜいるのだろう?これまで数十年間もいなかったのに。 まず、その侵入経路を考えてみた。すると、神棚近くのエアコンの壁にネズミの尿らしき染みを発見。そこには室外機とつなぐホース用の穴があけられていて、その穴の周りに少し隙間がある。ここから侵入したのだろう。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!