その手に残されたのは。

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 そんなスタートから一年かけて恋人同士になったものの、わかっていたとはいえデートの予定は基本的に当日キャンセルだった。体が弱い。持病がある。もちろん体の触れ合いなんてない。わかっていたのに舌打ちをする日々に堪えられず、けれど、別れようと言い出せずに卒業してしまった。俺は大学へ。彼女は俺の家の近くの専門学校へ。  少しでも会いに行きやすいようにといった思惑があったのは知っていたが、そのころにはもう俺の気持ちは離れていた。バイト先のキレイなお姉さんのほうが夜のオカズになったくらいだ。  連絡の返事もしないで無視することも増えれば自然と関係が終わる。そう誤魔化して、言い訳をしていれば彼女の卒業なんてすぐだった。それでも健気に俺を彼氏として扱い続けた彼女は、体のこともあって就職が出来なさそうだ、という内容を震えた声で紡ぎ電話で報告をしてきた。  勤勉で努力家なことくらいはわかってやれていたが、励ましてやるどころか捨てるなら今だとばかりに話を遮り、別れを切り出してしまったのが俺である。  わかった、と。生きる希望すら失ったような声を最後に、彼女とはしばらく縁遠い生活の始まりだ。  数ヶ月後に届いた一通のメールには、誕生日プレゼントとして花を一輪よこせといった内容の催促文。
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