(〇一)

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 四月下旬、ゴールデンウィーク前の木曜日の夕方、仕事を終えた速水時貞(二十五歳)は、地下鉄御堂筋線の千里中央駅を降りて、待ち合わせ場所に向かって足早に歩いていた。  仕事が終わる少し前に、待ち合わせ相手から、相談があるので会いたい…といったラインが届いたのである。  千里中央駅は大阪府豊中市に位置し、大阪の南北を走り、大動脈といわれる地下鉄御堂筋線の北の終着駅である。  しかし、正確には御堂筋線から直結している北大阪急行電鉄と呼ばれる、地下鉄とは別の鉄道会社の駅なのである。  速水は二十五歳だが、身長はやや低めで童顔、その為か、全体的にまだ高校生の様な雰囲気がある。  そして彼は、これでも大阪府警捜査一課の刑事である。  ちなみに階級は巡査。  速水は待ち合わせ場所であるコーヒーショップの前に到着すると、待ち合わせ相手がまだ来ていないことを確認し、 (なんや、俺の方が早かったんかいな。焦る必要なかったな)  と、拍子抜けした。  速水はスマホを出すと、ラインで待ち合わせ相手に、先に店内にいることを伝えようとしたが、 「お待た?♪」  と、元気な若い女の子の声がしたので、そちらを見た。  そして、速水は声の主に、 「なんや、その格好!」  と、驚いた。  速水の待ち合わせ相手は、青いスニーカーを履き、デニムのショートパンツに胸の谷間が見えそうな薄いピンクのシャツ、そして黒のジャケットを羽織り、青い小型のリュックを背負っていた。  そして、ややロングの髪はポニーテールにしており、やや丸みをおびた顔には幼さと愛嬌がある。  その顔と発育のいい身体がアンバランスだ。 「お前、ンなカッコして、叔母さんに文句言われへんか?」  速水は呆れ顔で言った。 「あ、トキちゃん、ヤラシイ眼で見てる」  と、その女の子は、からかうように速水に顔を近付けて言った。  女の子は河西春香(十七歳)、高校二年生で速水の従兄妹である。 「アホ」  と、速水は春香の頭を軽く叩いた。 「ちょっと時間あったから、その辺ブラブラしてたら、二回もナンパされたわ」  春香は自慢するように言った。 「帰りは送るわ。せやないと、俺が叔母さんに怒られるさかいな」  速水は疲れたように言うと、春香の背中を押して、店内へ入った。  席についた二人は、メニューを見て注文をする。
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