(一七)

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 物音がしてベッドで眠っていた少女が、眼を覚ました。  時間を見ると夕方になっていた。  物音は空耳だろうか…  しかし、物音はまだしていた。  まだ眠りから覚醒しきっていないのか、その物音がなんなのか、把握できていなかった。  物音と同時に女の声がする。  ノックの音だ。  再びノックの音と女の声。  知っている女の声だ。  少女は立ち上がり、ドアを開ける。  そこには知っている女…すなわち、いつも見かけるホテルの制服を着た女性が立っていた。  少女が声をかけようとした時、ドアの影から、二人の男が現れた。  そして、男の一人が声をかける。 「羽田亜美ちゃんやろ? 俺や、春香の従兄妹の速水や」  少女…羽田亜美…は驚きのあまり、一瞬、絶句するのだった。  しばらくの沈黙の後、亜美は小声で、 「どうぞ」  と言い、速水ともう一人の男…楠を部屋に入れた。  亜美はベッドに腰かけ、楠と速水は立ったままである。  速水は亜美に楠を紹介すると、 「女子高生がまさか、ビジネスホテルいるとは思わんかったで」  と、言った。  楠と速水は、佐和や青葉と合流すると、東三国や新大阪を中心に、ビジネスホテルを片っ端から調べたのである。  これは東三国が、新幹線で多くの人間が出入りする新大阪に近い立地ということで、近隣には宿泊施設であるビジネスホテルが多いことに気づいた楠の発案であった。  そして、その中の一軒に、羽田亜美らしき人物を確認した楠たちは、ホテルの従業員で、亜美と顔見知りになった女性に同行を願い、部屋のドアを開けさせたのである。 「君、この部屋は津田先生の名前で取られてるんやけど、どういうことなんか、説明してもらえへんやろか…」  と、楠が優しく声をかけた。  しかし、亜美は何も言わない。  速水はサイドテーブルに置かれているノートパソコンを見つけた。  どうやら彼女自身が、自分の部屋から持ち出したノートパソコンのようだ。  画面は開かれており、速水が何となく眼にするのだが、それに気づいた亜美が慌てて画面を閉じる。  ところが、画面が閉じられる前に、その内容を見ていた速水は、 「亜美ちゃん、君は…」  と、呆然となる。  楠もどうやら見ていたのか、軽くため息をついた。  その時、ノックの音がして、ドアが外側から開かれた。 「鍵をせな物騒やで」  と、ドアを開けた人物が部屋へ入りながら言った。
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