(一七)

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 その人物とは、そう、津田武久だった。  津田は部屋にいる速水と楠を見て、ドアを開けた時の亜美同様、絶句した。  楠はゆっくりと津田に近づくと、奥へ行くように促すと、静かにドアを閉めた。  津田が亜美の隣に座るのを待ち、 「初めまして、府警本部の楠です」  と、自己紹介をし、 「単刀直入に話しましょう…下世話な言い方ですが、お二人は教師と生徒以上の関係がある…違いますか?」  そう質問した。  津田が何か言おうとするが、そのまま口を閉じた。 「あなたの名前で、ホテルを取っている以上、ヘタな言い訳はききませんよ」  と、楠が続け、 「いいですか、津田さん。我々は風紀係やなければ教育委員会でもあらへん。せやから、あんたたち二人を非難するつもりはあらへん。ただ、亜美ちゃんの親御さんが心配しとるさかい、その辺は大人として、ケジメをつけないかんのとちゃいますか?」  そう諭すように言った。 「し、しかし…今の彼女は…」  津田が戸惑うように言うと、 「亜美ちゃん…妊娠してるんやろ?」  と、速水が言い、 「さっき、パソコンを閉じられる前に見たんや。どっかの産婦人科のホームページが見えとった」  そう続けた。  亜美は両手で顔を覆うと、津田の胸に顔を埋めて泣いた。  津田は亜美の頭を撫でながら、 「先週、このコから月のモノが来ないと連絡があったんです。それで、怖くなった彼女は、家を出ると言い出したんです。私もこのコに対して真剣でしたが、なにぶん、急なことですから、考えがまとまらず、今週の月曜に、下校後、互いにゆっくりと考えることができるようにと、ここに部屋を取ったんです」  と、言った。  そして火曜日に病院に行き、妊娠しているとわかった…と、津田は言った。 「高校生を病院に連れて行って、よく疑われませんでしたな」  と、楠が聞いた。 「このコは見ての通り、大人びた感じのコですから、保険証を忘れたと言って、取り敢えず、実費で受けさせました」 「しかし、ずっとこのままってわけにはいきませんよ」  楠の問いかけに、津田は頷いた。 「あの、亜美ちゃん…」  速水が優しく呼ぶ。 「一つだけ教えてくれへんかな…」  亜美が速水の問いかけに顔をあげる。 「久保田優子ちゃん、知ってるよね。吹奏楽部の先輩の…」  亜美が頷く。 「その、君は学校で彼女とキスしたことある?」
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