(一七)

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 速水の質問が突拍子すぎたのか、亜美も津田も、ポカンとした表情を隠せなかった。  その反応を見て、速水は慌てて手を振り、 「いや、しょうもないこと聞いてゴメン。あるわけないわな。今の質問、忘れてや」  と、四苦八苦した。  どうやら、この様子だと、久保田優子絡みの件や黒沢殺しの件は関係なさそうだった。  羽田亜美は見つかった。  しかし、速水はこうした事情を春香にどう説明したものか、それが悩みの種だった。  阪急関大前駅の周辺は、学生向けのワンルームマンションが数多くあった。  その関大前駅から少しばかり歩いた、隣の阪急豊津駅との間にある円山町は、戸建てと大小様々なマンションがある。  その一角、宮田鈴江が借りている三階建てのワンルームマンションの前に、葛城と滝矢、上田警部と東淀川中央署の刑事や警官たちがいた。  葛城の提案で取り敢えず、葛城、滝矢、上田の三人が、宮田鈴江の借りている二階の部屋に向かい、他は外で待機することとなった。  葛城が一度、インターフォンを鳴らす。  しかし、返事がない。  葛城はゆっくりと何度かインターフォンを鳴らした。 「宮田さん! いませんか!」  葛城がうるさくない程度に怒鳴る。  それでも返事がない。 「宮田さん! 警察です! ちょっと話があるんですがね!」  葛城がドアを叩く。 「宮田さん!」  すると、中で物音が聞こえ、ドアのロックを解除する音が聞こえた。  葛城、滝矢、上田の三人が顔を見合わす。  ホラー映画さながら、ゆっくりとドアが開くと、そこに、薄い赤のワンピースを着た、美人だが能面のような表情をした宮田鈴江が現れた。 「宮田鈴江さんですね」  葛城が尋ねると、鈴江は小さく頷いた。  部屋の奥が暗くて見えないことを確認した滝矢が、 「部屋に誰かいますか?」  と、質問した。  鈴江が無言のまま道を譲ると、滝矢と上田が中に入って行った。  葛城は鈴江の様子をジッと観察していると、彼女のワンピースの所々に、血痕らしきものが付いているのが見てとれた。 「そのワンピースの染み、血じゃないですか?」  しかし、鈴江は応えない。  その時、滝矢が姿をあらわし、 「久保田優子がいました」  と、言った。  葛城は滝矢に鈴江を任せると、中へ入った。
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