(一八)

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 しかし、優子は逆に加奈子のためを思って、鈴江との関係は止めるべきだと忠告した。  そんな話が放課後に何度かしているうちに、加奈子の執拗さに不気味さを感じた優子は、レズというものが理解できない…と、彼女に言った。 「その時、彼女が急にキスして、笑ったんです」 「笑った?」 「はい…“これが女の味ですよ”って」  冴子は背筋がゾッとした 「私にはもう、宮田先生だけやなく、飯島さんも、理解できなくなりました」  優子は小さく首を横に振った。 「それじゃ最後に…」  と、冴子は一冊の本を出した。  病室から出て来た冴子は、一人、廊下の椅子に座っている加賀屋に近付き、優子に見せた本を差し出した。 「加賀屋警部補の言う通りでした。久保田優子の部屋にあったこれらの本は、全て宮田鈴江から渡されたものだそうです」  加賀屋は本を受け取り、 「やっぱりそやったか…」  と、言った。 「はい。宮田鈴江は久保田優子に、レズの良さを教えようと、半ば強引に渡してたそうです。久保田優子も最初は捨てようと思ったそうですが、あとで返してくれと言われてたらと考え、残してたそうです」 「なるほどね…」 「でも、加賀屋警部補、どうしてそれがわかったんです?」 「本の状態と匂いや」  冴子が怪訝な顔をする。 「俺はな、これらの本を見た時に、違和感があったんや」 「違和感…ですか」  加賀屋は本をパラパラとめくった。 「ああ…本の状態の良さと匂い。俺は本が好きでよく読むからわかるんやけど、本ってのは、新しい本はパラパラとページをめくると、新品の匂いがするもんなんや」  冴子は加賀屋が優子の部屋で、何冊かの本をめくっている状況を思い出した。 「俺はこれらの本に、新品のような状態の良さと匂いを感じたんや。せやから、俺はもしかしたら、久保田優子はそないに本を見てないんじゃないかと思ったわけや。まあ、自分で買ったか、人から借りたかまではわからへんけどな…」  加賀屋はそう言って、本を冴子に返し、 「ほな、行こうか」  と、立ち上がるのだった。
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