(一九)

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 そして翌日、宮田鈴江の取り調べは、上田警部の計らいで、府警本部にて行われることになった。  取り調べは葛城と滝矢、そして上田警部の三人が担当した。  しかし、女性の取り調べなので、朱里も立ち会っている。  鈴江はワンピースから、白のTシャツとジーンズに着替えさせられ、俯いて座っていた。 「あなたが、黒沢達彦を殺したんか?」  と、主尋問を担当した葛城が聞く。  しかし、鈴江は応えない。 「あなたが着ていたワンピースと、吹田市円山町のワンルームマンションの部屋で見つけたコートの内側から、黒沢さんと同じ血液型の血痕が採取されたんですよ。どうなんです?」  それでも鈴江は応えない。 「あなたは黒沢さんを刺したあと、目立たないようにと、コートを着たんやないですか?」 「…はい…私が殺しました」  鈴江は俯いたまま、ようやく小さな声で応えた。 「何故、殺したんですか?」  鈴江は応えない。 「宮田さん…?」 「…あいつが…」  と、鈴江が呟く。 「え…?」 「…あいつが優子さんを奪おうとしたからよ!」  鈴江は顔を上げ、鬼神のような表情で葛城を睨みつけた。  その迫力に、滝矢、朱里、上田は圧倒されるが、葛城は淡々と、 「あいつとは、黒沢さんのことやな?」  そう鈴江に語りかけた。 「そうよ」 「しかし、奪おうとするもなにも、久保田優子さんは、あなたのモノでもあらへん。違うか?」 「あのコはね、男なんて汚らわしいモノに触れられたらあかんのよ。それを、あいつは…」 「せやから、殺した…?」 「それだけやない。あいつは私のことを異常やって言うたのよ! 異常やって! 許せるはずないやん!」  葛城は鈴江が落ち着くのを待ってから、質問した。 「どうやって、黒沢さんの家に入ったんや?」 「優子さんからの言伝てがある言うて、入ったんや」 「それだけで、入れてくれたのか?」 「あと、優子さんのことで、話がある言うたわ」  これは、鈴江が優子を吹田市円山町のワンルームマンションに誘い込んだのと同じ口実だった。  単純だが、気になる相手の名前を出して誘い出すのは、効果的である。 「ところで、吹田市のワンルームマンションだが、あれは本当に、音楽の為に借りたんか?」
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