逃げた小鳥

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 琴梨の意識が戻ったと病院から連絡が入ったのは、結婚式の日から十日後のことだった。  連絡を受けた俺は、一瞬頭を殴られたような衝撃を受けた。良かった……琴梨の意識が戻った……! 連絡を受けてすぐに職場を早退し、病院に向かう。  結婚のことや、親父との約束のことはもうどうでも良くなっていた。この十日間、俺が考えていたことは、琴梨の無事だけだ。ただただ、琴梨に会いたいと、そう思っていた――。  ナースステーションで名前を告げると、担当の看護師がすぐに部屋に案内してくれる。しばらくICUにいた琴梨とは会うことができず、今日が初めての面会だ。少しずつ、鼓動が早くなる。早く、会いたい――君に。 「一度意識が戻られて、でもまた眠ってしまわれたかもしれません。脳波に異常は見つかっていませんから、安心してくださいね」  そんなことを言いながら連れてこられたのは、ナースステーションの近くの個室だ。白く、無機質な広い部屋にベッドが置いてある。その中に、琴梨が眠っていた――。
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