キノシタ

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「失礼します、二年三組の安藤です。木下部長~~~」 ドアを思いきり乱暴に開け、大声を出す笑海。ざわめく教室。 「ちょっと、笑海、声大きすぎ。先輩たち、びっくりしてる。」  私は慌てて注意するも、笑海は気にしない様子だ。 「ふぇ?あ、部長だ。・・・ん?」  部長が来たので後ろを振り向いた。しかし、思わず声を失ってしまった。 そこに立っていたのは、真っ青な顔をした、よろけながら歩く部長だったからだ。目にクマがはっていて、頬は若干こけている。が、顔には笑顔が張り付いていた。 「部長、貧血ですか~?」 と、笑海が聞く(まったく能天気な子だ。)。 「あ、いや、貧血じゃ・・・。まあ、ちょっとね・・。」  先輩はごまかすように言った。絶対何かあったんだ、と思った。私はちらりと笑海を見ると、どこかぼーっとしていた。 「先輩、すみません。明日の部活についてなんですが・・・。明日は何か作るのですか?」  笑海がなかなか質問しないので、私が代わりに 聞くことにした。 「うん・・とね、お雑煮。日本中のお雑煮を作ろう。」 「ありがとうございます。餅は・・・。」 「嗚呼、大丈夫。全部用意してくるから。」  よかった、いつもの頼もしい部長だ。私は安心し、ほっと溜息をついた。 「あ、後ね・・・。」  部長が私の服の裾をつかみ、顔を上げた。先輩の目は少し潤っている。ガバッという効果音が付きそうなくらい勢いよく掴まれたので、思わず自分の足を蹴ってしまった。 「?何ですか~?」  笑海は首を傾げ、人差し指を口に当てた。  何か言いたげに部長が私に呼び掛ける。が、俯き口を噤んで無口になった。 「・・・。ううん、何でもないよ・・・。」   すると首を振って私を離した。ゆっくりと下がっていく手。私を掴んだ時にめくれ上がった と思われる袖から、薄っすらと赤黒く染まった、真っ白い布が手首に巻かれているのが見えた。 「そうですか~?お大事にしてくださいね。」 「・・・ありがとうございました、先輩。」  そして私たちは静かに教室のドアを閉じた。。  でも、私は聞いていた。部長は貧血なんかじゃない。部長は小声で言っていた。閉まりかけた扉の隙間から、弱弱しい声が漏れていたのだ。      気を付けて、ごめんね、と。
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