1章

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都心の一角。 ビル群並ぶ街。 悠然と聳え立つ一際真新しい高層ビル。 それは空を貫きそうに高く、目を惹き付ける。 中心では電光掲示板が輝かしいアイドルたちを映しながらかわるがわるCMが流れる。 自社が携わったものを次から次へと忙しなく映す大きなディスプレイを、青年は遥か下から呆然と眺めた。 その瞳は興味なさそうに、瞼を半分落とす。 アイドルたちが歌うその歌詞は、色がこもり、移り変わる彼らの目には艶かしい熱がこもる。 目の前にいる誰かを誘っているような、その仕草。 青年はため息を零す。 それでも青年は見続ける。 ゴシックに染まり妖艶醸していた映像は終わりを告げて、音は泡のように消える。 瞬間、白地に黒い文字で大きくロゴが浮かび上がる。 『COULEUR』 日本語で色彩を意味するフランス語。 それがこの目の前に聳え立つビルに創設された会社の名前だ。 限定された色に囚われることなく、誰からも愛される色彩を描け。 何色にも染まるな。 その意味も社名に込められた大手アパレル企業『COULEUR』は就職競争率も激しく、毎年ながら学生たちが鎬を削り門を叩く。 慣れない手つきで社員証をゲートにかざす者もいれば、慣れた手つきで淡々とゲートをくぐる猛者もいる。 夢の階段を昇る社員の中、一人青年はまっすぐ平坦な道を進む。 入り組んだ廊下を進み、人の往来が減りあたりは人の姿も見えない場所。 ビルの最奥に位置する部屋。 システム管理室と小さな表札が設置された部屋の扉を押す。 「おはようございます」 システム管理室を拠点とするシステム管理部署に所属する青年、天海奏は毎朝のようにこの場所へと出社する。彼は午前一〇時~午後七時勤務のため、所属する者の中では遅く部屋にはすでに個々に寛いでいた。 「おはようございます。天海くん」
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