雨に沈む、其の姿。

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「……雨、っすか」  聞こえた水音に顔を上げれば、窓の外は其れなりの雨で煙って見えた。作業に没頭していた思考を浮上させた程の水音だ。意識してしまえば今迄気が付かなかったのが逆に不思議な程、大粒の滴が激しく窓を叩いている。  ぽつり、思わず漏らしたのは胸を締め付けるものを雨には感じずにいられないから。 「キミは普段何にも意識を向けないし、集中すればどんな音も聞こえてない、って感じなのに雨音にだけは敏感ねぇ」 「そうですね」  先輩の指摘に手を止め、今だ名残惜しそうに窓外を見つめたいと訴える思考は無視、オレは苦笑を浮かべてみせた。  あの日もこんな雨だった。強くて大粒で、眼前が煙って、まともな視界が望めない様な。 「今も忘れられない思い出があるんすよ」
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