わかれのとき

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セックスの仕方が分かんなくて悩んだ時も、彼女の誕生日プレゼント選びで悩んだ時も、たぶん、当時の彼女のために悩んだわけじゃない。 周囲の目に自分がどう見えているのか気になって、完璧を求めたのだ。 完璧な人間がこの世界に居るわけがない。神様だってきっと欠点の一つくらいあるだろう。 だから、どんな時でも思い悩むのは自分のためだった。 今回初めて…失う事を恐れて悩み、焦って、周囲を巻き込んだ。 「こんなに自分が弱かったなんて…知りませんでした」 つぶやきながらまた強く彩香を抱きしめると、腕の中で彩香の細い腕がもがく様に野本の背中へと回った。 「苦しめて…ごめんなさい。ちゃんと、私も悩みます。だから…もう少しだけ……」 ──時間をください……。 その言葉を言う前に、野本の口唇が彩香の額に吸い付いた。 「例え別れを切り出されても、諦めるつもりはありませんでしたよ。今は無理でも、この先は分からないでしょう?」 視線を合わせてそう言った野本の目の下には、いつもより濃い(くま)がある。 その顔を見れば、これ以上苦しめるようなことは言いたくなかった。 ぎゅっと背中に手を回して胸に頬擦りすると、野本は優しく彩香の髪を撫でた。 『涙色の月・完』 【美食家の『誤』楽】に続く……。
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