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デパートの近くにある喫茶店の駐車場に車を停めると、張り詰めた空気に耐えられなかったのか、彩香は慌ててシートベルトをはずそうとする。…が、すぐにその手を野本に掴まれた。
「俺でも傷つきます……。逃げられるくらいなら断っていただいて構いません」
真っ直ぐ彩香を見てそう言う。
──本当にどうしたらいいのか分からない……。
『違うんです……』
そう言いたいのに、違うとも言い切れない……。
もどかしい感情を、どう言葉にすればいいのだろう。
なんで突然そんな事を言い出したのか…それが気になって仕方ないし、どんな顔をしていいのかも分からなかった。
無言で通すのも難しい。
いつまでも優衣香を待たせるわけにはいかないのだから…。
そう思って野本の手に、もう片方の左手を重ねた。
「突然で…びっくりしてるんです……。夜までに…ちゃんと考えます」
自分で言って驚いた。
一体何を考えるというのだろう……。
新婚初夜じゃあるまいし、三つ指立ててご挨拶する必要もない。
付き合うという事は、そういう事も含まれると思っていたはずなのに……。
彩香が頬を赤らめているのを見ると、野本は少し納得したように手の力を抜いた。
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