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倉庫を調べるのに外に出てくると、その澄んだ空気をめいっぱい吸い込んだ。
とはいえ、札幌の空気はそれほど澄んでいないが、香水の匂いと残飯の匂いから解放されただけでも清々しい。残飯なんてもう何ヵ月前のものだろう……。失神しかけた数分前を思えば懐かしい。
不意に倉庫を調べていた鑑識官が黒崎を呼んだ。
「被害者はタバコは吸わなかったですよね?」
そう訊きながら、ビニールの袋に入れたタバコの吸い殻を差し出してくる。
「あったじゃん!これだよ、これ!お前、お手柄だよぉ~」
黒崎は機嫌良さそうにその鑑識官の頭を撫で、その場で軽く踊って見せた。
愉快なおじさんだな…と、通行人がその様子を見ながら通り過ぎていった。
「おい、五十嵐くん!見つかったぞ!帰るぞー」
よっぽど飽きたらしい。
山の次は自宅を這いつくばって物証を探していたのだから。
「でも、それが証拠になるとは限りませんよ?また来なきゃいけなくなるなら、もう一個くらい何か探しておいた方が……」
そう言った時、五十嵐は一枚の名刺を見つけた。
煌びやかなその名刺には『アカネ』と、書かれている。
「源氏名か?」と、つぶやきながら、隅々まで目を通すと、店の名前と住所、電話番号が書いてあった。
今まで小田島茜が務める店を聞きまわったが、どの店にも在籍していないと突っぱねられた。
その理由がこの名刺から分かった。
少しずつ事件の解決が近付いているようだ。
「よーし!やっぱ帰ろう」
五十嵐が言うと、全員が目を輝かせて荷物を持ち上げ、車の中へと逃げ込んで行った。
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