天使の涙と悪魔の微笑

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署内で休憩も兼ねて書類整理をしていた野本が、彩香から掛かってきた電話に出ると、五十嵐も一瞬視線をこちらに向けた。 「咲楽ちゃんが……?」 彩香から状況を聞きながら、野本はすぐに席を立った。 上着を手に取ると、隣りで報告書を作成していたらしい五十嵐がまた野本を見上げる。 「咲楽ちゃんがどうしたんです?」 そう訊くと、歩き出そうとしていた野本が振り返る。 「何かトラブルがあって逃げ出したそうです」 「逃げ出したって……思春期の子ならそういうことくらいあるでしょ」 口ではそんな事を言っていても、一緒に出掛けるつもりらしい。 「どうやら咲楽ちゃん、怪我をしているようです」 血痕が道路に残っていて、今、彩香はその血痕を追跡しているという。 「滴るほどの血痕?それって相当な量だろ……」 五十嵐は上着のポケットから携帯を取り出すと、どこかへ電話し始めた。 咲楽の身元と共に医療記録を調べ、万が一の時に備えようと思ったらしい。 五十嵐が電話で話ながらついてくるのを確認すると、二人でエレベータに乗って地上へと向かった。
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