天使の涙と悪魔の微笑

25/32
前へ
/285ページ
次へ
その言葉を聞いた緒方はクスッと笑った。 どちらかというと本田もそちら側の人間だ。もう片足はそっち側にすっぽり入っていると思うのだが、まさかそんな言葉を吐くとは思わなかった。 とはいえ、警察官であること自体、世間から見れば役人なのだが。 「五十嵐と野本は例の刑事に会いに行ったか?」 本田が訊くと、緒方は頷いた。 「今回の事件は厄介ですからね。折原さんには一役買ってもらわないと事件の解決は見込めません。ここは…本格的にコンサルタントとしてお迎えしてはいかがですか?」 緒方の言葉を聞きながら、本田は緋浦の復顔の様子をじっと見つめる。 確かに彩香が捜査に協力してくれると手っ取り早いが、彼女にも生活がある。報奨金でも払えればいいが、今回はその対象になっていない。 「上がこれだけプレッシャーをかけてるんですから、報奨金だって降りるでしょう?」 人の頭の中を覗き込んでそんな事を言ってくるから、本田は思わず舌打ちした。 その音が聞こえたのか、一瞬、緋浦の鋭い視線がこちらに向いたと思ったが、すぐに作業に戻ったらしい。 本田は静かにため息を吐くと、緒方の肩に手を置いた。 「復顔が終わったら五十嵐と野本に写真送っとけ。俺は署に戻る」 そう言った後、静かに部屋を出て行った。
/285ページ

最初のコメントを投稿しよう!

707人が本棚に入れています
本棚に追加