天使の涙と悪魔の微笑

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地方番組のロケでJRタワーにやってきた翔は、プロデューサーに手招きされて小走りで近づいた。 「どうしたんですか?」 訊くと、プロデューサーは苦い顔しながら翔の耳に顔を寄せた。 「言いづらいんだけどさ、実は市議会の磯島(いそじま)議員の娘さんがキミのファンらしいんだよ。で、その磯島議員が今日この番組に出てくれることになっていて…うまく持ち上げてほしいんだよね。あの人に嫌われるといろいろ面倒なんだ」 そう言った後、顔の前で両手を合わせてきた。 地方限定ではあるが、どうやら確実に知名度は上がってきたようだ…と、翔は顎を撫でた。 しかし、議員をヨイショするのはあまり好きじゃないな…とも思う。どうせ中年の脂っこいおっさんが出てくるんだろうな…と、思いながら、とりあえず頷いておいた。 「まあ、うまくやりますよ」 そう言ったら、プロデューサーはホッと息を吐いて笑った。 「ありがとう!うまくいったら今日はごちそうおごるから!ほんと、頼むよ!」 肩をバンバンと叩かれると、翔は顔をしかめながらも無理やり笑顔を作った。 どうやら相当厄介な相手らしいな…と、なんとなく覚悟を決めると、もう一度鏡を確認しにスタイリストの元へ戻った。
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