天使の涙と悪魔の微笑

27/32

706人が本棚に入れています
本棚に追加
/285ページ
それから順調に撮影は続いたが、収録が終わろうとしているのに、例の市議会議員とやらは一向に訪れず、現場に不穏な空気が流れ始めた。 翔としては厄介なゲストは来ない方が楽なのだが、もしかしたら収録が長引くのかな…と、思っていると、店の外から暖簾(のれん)をくぐって、白髪頭にスーツ姿の小さな男性が入って来た。 「いやぁ、遅くなってしまって申し訳ない」 収録中でカメラも回っているというのに、その人はニコニコ笑いながらこちらに向かって歩いてくる。 プロデューサーに視線を向ければ、目で合図を送ってきた。 どうやらこのまま続けろ…と、言っているようだ。 翔は椅子から立ち上がると、笑顔を向けながら両手を差し出した。 「これはこれは、磯島議員じゃないですか!」 正直、全く知らない人だったが、さっきプロデューサーが言ったことは記憶している。 「いやいや!キミが翔君か!どうも初めまして!」 と、翔より頭一個分以上小さいその人が翔の手に自分の手を重ねる。 「私には娘がいるんだが、二人ともキミのファンでね。会えて嬉しいよ」 手を握って笑い合うと、出演者たちは拍手を送り、磯島議員にいくつか質問をしながら、談笑した。 なぜこの人が出演することになったのか、全く謎なのだが、特に宣伝も無ければ政治的な話もなく、彼はそそくさと収録中に帰って行った。 収録が終わった後、プロデューサーから「いやぁ、助かったよ」と、言われたが、翔は特に何もしていない。いつも通りコメントしていただけだが、どうやら議員は上機嫌で帰ったようだ。 とりあえず胸を撫で下ろすと、今日のごちそうは何だろうな…と、食事会の事を考えていた。
/285ページ

最初のコメントを投稿しよう!

706人が本棚に入れています
本棚に追加