天使の涙と悪魔の微笑

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彩香の提案で、神藤の別荘へ一時避難をしようという事になり、鍵を拝借しに神藤の家へと向かった。 屋敷の前までやってきて、優衣香は開いた口が塞がらなくなったようだ。 ポカンと口を開け、大きな門構えを見て目をパチパチと瞬かせている。 「彩香さんのお父さんは…何をしてらっしゃる方なんですか?」 大きな家は見慣れている俊介だったが、やはりその屋敷は特別大きく見えたらしい。 思わずそう訊いていた。 「父は精神科医です。さあ、どうぞ中へ……」 慣れというのは恐ろしい。彩香は平然と大きな門をくぐり抜けて広い庭園へ入っていく。 はぐれないように俊介と優衣香が彩香の後から入っていくと、女性が庭で花に水をあげていた。 「登季子さん、ご苦労様です」 彩香が声を掛けると、彼女が振り返る。 「あらあら、彩香さん。今日はまたかわいいお友達もご一緒ですねぇ。イケメンも!彩香さんの周りには美形が集まるのねぇ」 そんな事を言いながら、年配の背の低い女性がホースを置いて近寄ってくる。 彩香は微笑みながら、 「お父さんは今日はお仕事ですよね」と、訊いた。 「先生なら学会に出かけましたよ」と、言った後、 「ホントに引退されるおつもりかしら?もったいないわね」と、頬を膨らませる。 神藤が引退を考えているのはどうやら本当のようだ。 「あら、失礼。どうぞ、お茶でも召し上がってらしてください。ケーキもありますから」
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