天使の涙と悪魔の微笑

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いつでもマイペースな登季子さんにお茶を勧められると断るタイミングも掴めなくて、結局お茶とケーキをごちそうになってから出かけることにした。 「小樽に行かれるんですか?まあ、あそこの別荘なら一週間前に先生がお泊りになられてますから、問題もなく過ごせると思いますがねぇ」 登季子さんが紅茶を淹れ、彩香はケーキを皿に移していく。 俊介と優衣香は初めて来るお宅に緊張しているようだ。 「それより、お二人は何者です?なんだか陰のある方々ですね」 俊介の顔を覗き込みながら登季子さんがそう言うと、優衣香は思わず身を固めた。 「登季子さん、詮索はダメですよ。私の大事なお友達です」 彩香がそう言って口元に人差し指を持っていくと、それを見た登季子さんは柔らかい笑みを浮かべて頭を下げた。 「これは失礼いたしました。彩香さんが滅多にお友達を連れていらっしゃらないから、こういう事は慣れないんですよ」 どうやら批判されているようだ…と、彩香は苦笑いを浮かべた。 「ですが、あなたはなんだか五十嵐さんや野本さんと似たような雰囲気ですね。公務員さんかしら?」 俊介の顔を覗き込んで登季子さんがそんなことを訊くから、俊介は苦笑いを浮かべた。 どうやら彩香同様、勘が鋭いタイプの人間らしい。 「元教師です」俊介がそう答えると、 「あら、じゃあこちらは生徒さん?」と、訊いてくる。 稲妻に打たたような衝撃に、優衣香は思わず咳込んだ。 それに対して、彩香はふふっと口元を手で覆って笑っている。 この状況で笑えるなんて、肝の据わった人だな…と、俊介は首を傾げた。
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