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緒方から連絡を受けて神藤の屋敷でそのまま待っているように指示を受けたから、二杯目の紅茶が注がれた。
登季子さんは、夕飯の買い出しがあるから…と、少しだけ留守番を任され、彩香と俊介と優衣香は、リビングで紅茶を飲みながらしばらくくつろいでいた。
「広いお屋敷ですね」
俊介が訊くと、彩香はふっと微笑む。
自分の家ではなく、神藤の家であることを彩香はしっかりとわきまえている。父が稼いだお金で買った家であって、彩香の家ではない。
「俊介さんのご両親はどういったご職業ですか?」
なんとなく訊いてみると、
「父は悪徳弁護士で、母は金持ちしか診ない麻酔科医です」と、答えた。
どうやら親子の仲はよろしくないようだ。
「弁護士という事は…事務所を持ってらっしゃるんですか?」
「ええ。勝つ弁護しか引き受けない卑怯者ですよ。どっちを見ても金の亡者です」
先ほどまでとは打って変わり、俊介の目は冷たいものに変わっていた。
優衣香の父親は殺人の容疑が掛けられており、母親は5年前に自殺している。
この二人はどこか似ているのかもしれない。親の愛に満たされずに育てられた幼少期が、大きな傷になっているのかもしれない。
彩香はそんなことを思いながら、ため息を吐いた。
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