2/36
705人が本棚に入れています
本棚に追加
/285ページ
涙を流す事も無くそう告げると、俊介の方が瞳に涙を溜め、優衣香の額に自分の額を合わせた。 「お前…分かってんのか?まだ13歳なんだぞ……?ちゃんと話せるのか?訊かれた事に答えられるのか?」 頬に涙が流れ落ちると、優衣香はふっと笑った。 「先生が言ったのに……。早く大人になれって」 そんな言葉が返ってくると思っていなかったのか、俊介はきつく目を瞑り、大粒の涙を流した後、優衣香の身体を抱きしめた。 小さな優衣香の手が俊介の背中に回ると、慰めるように背中を撫でる。 見ていられなくなった彩香は、二人に背を向け、キッチンへと逃げ込んだ。 流れてくる涙を手の甲で拭いながら、震える口唇を噛む。 絶対にこの事件を解決して、優衣香と俊介の自由を勝ち取らなくてはいけない。 被害者は小田島茜。 容疑者は麻野井拓郎。 この二人がどういう関係で、なぜ殺人事件が起こったのか……。 それを明らかにしないと、証拠はおそらく出てこない。 二人を苦しめる悪をどん底まで叩き落としてやりたい……。 生れて初めて知った胸を占める黒い感情に、彩香が戸惑う事は無かった───。
/285ページ

最初のコメントを投稿しよう!