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涙を流す事も無くそう告げると、俊介の方が瞳に涙を溜め、優衣香の額に自分の額を合わせた。
「お前…分かってんのか?まだ13歳なんだぞ……?ちゃんと話せるのか?訊かれた事に答えられるのか?」
頬に涙が流れ落ちると、優衣香はふっと笑った。
「先生が言ったのに……。早く大人になれって」
そんな言葉が返ってくると思っていなかったのか、俊介はきつく目を瞑り、大粒の涙を流した後、優衣香の身体を抱きしめた。
小さな優衣香の手が俊介の背中に回ると、慰めるように背中を撫でる。
見ていられなくなった彩香は、二人に背を向け、キッチンへと逃げ込んだ。
流れてくる涙を手の甲で拭いながら、震える口唇を噛む。
絶対にこの事件を解決して、優衣香と俊介の自由を勝ち取らなくてはいけない。
被害者は小田島茜。
容疑者は麻野井拓郎。
この二人がどういう関係で、なぜ殺人事件が起こったのか……。
それを明らかにしないと、証拠はおそらく出てこない。
二人を苦しめる悪をどん底まで叩き落としてやりたい……。
生れて初めて知った胸を占める黒い感情に、彩香が戸惑う事は無かった───。
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