706人が本棚に入れています
本棚に追加
/285ページ
一時間ほど経って、優衣香と野本、五十嵐が帰ってきた。
部屋に入るなり、優衣香は俊介の姿を探していた。
「俊介さん、優衣香ちゃんの荷物を取りに帰ったの」
彩香が言うと、優衣香は目を伏せて寂しそうな顔をする。
少しだけ赤くなった目を見ると、神藤の元で泣いたのは分かる。
事件の事を話さなければいけないという事は、あの日の事を思い出す…と、いう事だ。
小さな少女の心の傷が、そんなに簡単に癒えるはずがない。
父親が犯罪者だからと言って、その娘まで犯罪者の気持ちが分かるとは限らないのだから。
優衣香の手を取ってソファまで歩くと、彩香が座り、優衣香の手を引いた。優衣香が隣に座ると、左手でその頭を引き寄せて髪を撫でた。
「今日の夕飯、きっとおいしいと思うよ。登季子さん、料理が上手なの」
優しく髪を撫でながら、元気づけようとしているのか、少しだけ声のトーンを上げるから、優衣香はその肩にもたれかかった。
最初のコメントを投稿しよう!