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天使の涙と悪魔の微笑
長いこと咲楽の姿を追って走り回っていたが、横断歩道の信号が赤に変わるとその姿を見失ってしまった。
若いから走るのも早いし、引っ越して来たばかりで道もよくわかっていないから、計算することなく細い道や大きな道を容赦なく走り回った。
彩香なら絶対に通らない道に消えていった咲楽の後ろ姿を見送りながら、彩香は顔をしかめた。
そうだ。咲楽はこの町をよく知らない。
ここまででも結構な距離を走ってる。家に帰ろうとしても帰り道を思い出せるのだろうか……。
信号が青に変わると、彩香は胸を押さえ、息を切らしながら、また走り始めた。
咲楽が消えて行った路地まで来て足を止める。
もう、咲楽の姿はどこにもなかった。
ふと道路に視線を落として目を見開いた。
──これはとんでもない事態かもしれない……。
ジーンズのポケットから携帯電話を取り出した彩香は、履歴から野本に電話を掛けた。
俊介には悪いが、少し大事にした方が良さそうだと思った。
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