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そして今…
あれから一年後。
産右(うぶう)神社のおひざ元、甘味喫茶店「うさぎや」には多くの客が訪れていた。
慶一郎は初めて来店した腹の出た中年男性と小柄な男性の注文を待っていた。
「店主よ。こちらにあの黒い豆を煮出したもの……」
「コーヒーですか?」
「あぁ、店主よ。それを飲もうか。しかし……ストレート、ブレンド、アメリカン?いろいろ書いてあるが……」
なかなかの貫禄のある体格の中年の男がメニューを見て考える。
「なにせ初めてのことだからな。その飲み物のことは良くわからんぞ」
「では、大国主(おおくにぬし)さま」
慶一郎がコーヒーの説明をするよりも早く、小柄な男性が提案をする。
「あそこにいる『こーひー』を勧めた者に伺えばよろしいのではありません?」
「そうだな」
そう言って太った男はカウンターのほうを向く。
「おい、月の。どれを飲めばいい?」
「むぅ」
振り向いた和服を着た少年は常連客として朗らかに笑う。
「初めて来たときには、『ばりすたのおすすめ』を頼むのがしきたりらしいがのう」
ちなみにいうとこの店にそんなしきたりはないし、慶一郎はコーヒー専門のバリスタというわけでもない。
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