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冷たいものと熱いものを交互に口にして、その途中にバランスよくケーキを口に運ぶ。
美しかったゆえに冷たい印象を与えていたが、今では目の前のことしか見えていない少し子供っぽい一面を見た気がして、慶一郎は最初よりも随分と親しみを感じていた。
「冷たい」「熱い」の独り言を繰り返すだけの彼に、慶一郎は何とも複雑な気持ちのままでいた。できれば「おいしい」の一言が欲しかった。
「おいしいですか?」
アイスが溶け切ったタイミングで、慶一郎はそれを聞いた。
「味がある」
けれど、その感想は微妙なものだった。
「これは塩味以外の味があるぞ」
甘さがなければ甘味でない気はしたが。
「そうだな、うん」
溶けてしまったアイスをほんの少し悲しげな瞳で見つめる。
「これが特に甘い」
「気にいったなら、妹も喜びますよ」
「?」
「このアイス。僕が作ったんですけど、抹茶を入れてくれたのは僕の妹なんです」
「……そう言えば年の離れた妹がいたか……。あの男は特に娘たちを気にかけていたな」
「妹のことも知っているんですか」
「あぁ、少々複雑だな、お前のところも」
その一言で、彼がどこまで父と親しかったのか、察しがついた。
線香はあげないと言ったが、彼は実質父を弔いに来たのだろう。この父の残した夢の場所に来ることで……。
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