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「私はあまり味に興味がない。人がこれをおいしいと感じるか……正直わからない。この飲み物も……あの男がしきりに心配してたゆえに参った」
「そう、……だったんですか」
父はこの人に相談していたのか。
そして自分は父に強く心配されていたのか。
「……この店はどうなる?」
「まだ決めていません」
それでもこのままでいいというわけでもない。
せっかくここまでお店ができあがっている。神社の参拝客の休憩所となれば一番よかったのだろう。それを考えれば、すぐにこの店を開くことができない自分ではなく、技術を持った人に貸したほうが周囲の人も喜ぶのではないかとも思う。
ただ、その決断ができないのは、ここがそうなった時、居場所が失われたようで、自分たち兄妹は家を失ってしまうのではないかと不安に襲われる。
少なくとも、まだ中学生の妹が自立するまで、ここはこのまま思い出の場所として残しておきたい気持ちもある。
「この味は……売れないのか?」
率直な質問に慶一郎は頭を掻いた。
「いえ、レシピには自信はあるんですが……」
父と、そして妹と完成させた味だ。それだけならば自信を持って人をもてなすことができるだろう。
「コーヒーに関してはまだ譲れない気持ちがあったり……」
何より。
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