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しかし、そんな事情を知らない男は大きく腹を揺らした。
「なるほど、月の奴が勧める『ばりすたのおすすめ』とやらをもらおう。2つな。……あぁ、それと抹茶クリームあんみつももらおうか。……なんでも、ここの抹茶アイスは絶品だそうだ」
「はい。あちらの方よりいつも伺っていますよ」
そう言葉を足す小柄な男。
慶一郎は二人の注文をメニューに書き込んで、一礼する。
「少々お待ちください」
慶一郎はカウンターに戻ると脳内で作業を分ける。そしてアルバイトに作業を割り振り、自分の仕事をする。
コロンビア産のコーヒー豆をグラニュー糖サイズになるまでミルで挽き、漉し器に入れる。沸騰させてから数分おきお湯に十分な空気を含ませる。そうすると高いミネラルウォーターを使わなくても口当たりの良いコーヒーになると感じるのだ。
この店に今流行りのサイフォンはない。だから昔ながらのドリップ方式で一つずつ丁寧にいれる。最初にお湯を含ませて豆を十分に蒸す。その後中心に細くお湯を入れ、泡が立って来たら、手首を回し「の」の字を書くように外側へもお湯を回しかける。この時外側にかけるときはかけるお湯の量を増やすのがポイントだ。
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