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そうしていると、香ばしく深い香りが漂ってくる。この瞬間が慶一郎は一番好きだ。
コーヒーのできあがりと時を同じくして、アルバイトが仕上げたあんみつもできあがる。初めての客ということで、ここはアルバイトに任せず、慶一郎自らが運んだ。
「お待たせしました。こちら初めての方にお勧めする「コロンビア」です。まずは一口だけそのまま口にしていただき香りと味をお確かめください。その後は御好みで。ミルクを入れるとまろやかな口当たりになります。砂糖は甘味が欲しいときに入れてください」
「ほう、これは面白いぞ」
恰幅の良い男は朗らかに笑う。
「このような香り初めて嗅いだ。異国の飲み物もなかなかに面白いな、少彦(すくなひこ)」
「そうですね。大国主(おおくにぬし)さま」
「それでは何かありましたらお声かけください」
そう言って、慶一郎は席を離れカウンターに戻る。
人間が相手でも、初めての客を相手にするとやはりまだ緊張する。
しかも今の席に座っていたのは……。
「朔さん……。すごいお客さんをご紹介していただき何よりです……」
カウンター席に座っていた和装の少年に慶一郎は声をかける。
「むぅ?」
「あのお客さん。七福神の大黒天ですよね……」
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