61人が本棚に入れています
本棚に追加
あの立派なお腹。その昔見た七福神の絵本に出てくる大黒天そのままである。
「まぁ、そういう側面もあるなぁ、あいつには」
それならば日本の神話を聞きかじった程度の慶一郎だって知るビックネームだ。
「大黒天は食物と財福を司る神だぞ。ふむ、気にいられればさぞや御利益があるぞ」
そのご利益が過ぎなければよいのだが。
最近は人の客が少ないことを狙っているのか、開店直後の午前中の早い時間、神様のご来店が多い。
もっともこの客はいつでもこの席に座っている気がするけれど……。
「朔さんは変わりましたね」
ふとカウンター席に座っていた少年・朔を見ていたら、慶一郎は言葉を投げかけてしまった。
「むぅ?」
年若いが、和装をしている少年はコーヒーを飲みながら、嬉しそうに笑っている。
「わしは変わったか?」
「朔さんが最初にこの店にやってきたころは紅色の歌舞伎のような服を着ていましたし、髪も長かったですし……」
今は仕立ての良い深い藍色の一般的な着物で、髪も少年らしく短くなっている。あと、カラスも連れてこなくなった。「朔」という通り名も人間らしい名である。
最初のコメントを投稿しよう!