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「私は仏壇に手を合わせるような行為はしない。あれを悼む心も持ち合わせない」
ひどく冷たいことをさらりと告げる。
「しかし、男の話した飲み物に興味がわいた。ここで飲めるのだろう。ならばいただく」
不思議な人だった。ここはまだ店ではないのだから、追い返せばいいだけの話だ。けれど、父がどうやって彼と知り合ったのか少しだけ興味があった。
「店の中にどうぞ。ただし、鳥は店内に入れてはならない決まりでして」
「ふむ。店は開いてないというのにしきたりはあるのだな」
そう彼は文句のような物を言ったが、こればかりは衛生上仕方がない。
「そういうことだ。お前は外で待っておれ」
彼がそう発しただけで、そのカラスは彼の肩を離れた。その姿も、カラスを連れた浮世離れしたところもとても神秘的で、ありえないことだが神社に祭られている神様がやってきたのではないかと思うほどだった。
「これがその飲み物か」
店に入ってくるなり、彼は慶一郎の席にあったカップを覗き込んで、それに手を伸ばそうとした。
「入れ直します。そこへおかけください」
そう言って慶一郎はカップを持ってカウンターの中に入った。
謎の客は言われた通りカウンターに座る。……ただし先ほどまで慶一郎が座っていた場所を選んだ。
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