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いや、言われたように座っただけなのだろう。あまり考えていないようにも見えると言ったら、彼に失礼だろうか。
ともかく慶一郎はいつもの手順を守ってコーヒーを入れた。
ドリップする際に、頭の中で、父に火傷に気を付けるようによく子ども扱いされたのを思いだす。
それは大学生になってからもだった。もう子ども扱いするような年ではないだろうに。そんな父の言葉がいつも不思議だった。
「まだか?」
「すいません」
お湯を一から沸かしていたから時間がかかってしまった。しかし、店に出すならば早く提供することも考えなければならないなと慶一郎は心の隅で反省する。
挽いた豆にゆっくりとお湯を注いで、コーヒーのエキスを抽出する。
「どうぞ」
温めたコップにコーヒーを注ぎ、彼に差し出した。
彼は「黒い飲み物」と言っていたことを思いだす。コーヒーを知らないだろう。
「まず、ほんの少し一口飲んでみてください」
「わかった」
レクチャーすると、彼は言われた通りにする。
「どうですか?」
「熱い……」
「えっとお味のほうは」
「大丈夫だ。味はする」
それは果たしてそれは大丈夫なのだろうか。
「もし熱すぎれば、こちらのミルクを。甘いのがお好きであれば……」
砂糖を……。と言おうとして、気づいた。
「もしよければ何か召し上がりませんか?」
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