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「……それは食べ物か?」
「と言っても昨日僕が妹と作った余り物なのですが」
「この店は余り物を出すのか?」
なんだか不良店のように思われたようで、慶一郎は苦笑いをするしかなかった。
「もともとここお店として開いていませんし……。店としてではなく、個人的にちょっとお招きして、僕が出迎えたというていならばおかしくないでしょう」
「……あの男も食事の話をしていた」
ふいに出てきた父の存在に慶一郎はドキリとする。
「いや、いつもその話ばかりだった。あの男は食べ物の話ばかりだった」
「……失礼ですが、あなたは父とどこで知り合った方ですか?」
「神社だ」
そういえば幼いころの友人の実家である神社の足元のような場所にこの店はある。神主の一家とは家族ぐるみで仲良くしていたから、もしかしたらその縁で彼に知り合ったのかもしれない。
「ふむ。構わん。いただこう」
慶一郎は何も言わず、冷蔵庫を覗いた。
彼に話した通り、昨日久しぶりに兄妹で菓子を作った。父が亡くなり落ち込んでいた彼女を励まそうと、彼女が好きな物を焼いたのだった。
「どうぞ」
小さなお手製のシフォンケーキ。そして、横には生クリームがなかったので、抹茶のアイスを添えた。
「箸はないのか?」
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