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あれから千波はデジタル一眼レフカメラとフィルムカメラを併用していた。
フィルムカメラは使い慣れていないため、現像のコツや撮り方を一から矢野に教えてもらっていた。
今日は土曜だから、千波は二つのカメラを持って島をぶらぶらしていた。
傍嶌島にはコンビニやカラオケ、ましてやショッピングモールなんて存在しない。
だからこの島を不便に思う人もいるが、千波は不便には思わない。
ネットで色んな物が買えるようになった世界だ。ネットさえ繋がっていればどうにかなる。
反対にうるさくなくて千波にとっては快適だ。
「あれ、天羽さん?」
千波は聞き覚えのある声が聞こえ、振り向いた。
そこにいたのはーーー小鳥遊 翔だった。
「偶然だね。こんな所で何してるの?」
千波は小鳥遊が嫌いだ。
本当の自分を隠すように人格を作り上げている小鳥遊が苦手だった。
「別に…。」
「あ、写真撮ってたんでしょ?」
「だったら何?」
「…ねぇ、天羽さんはどうしてそうやって人を遠ざけるの?」
「嫌いだから。」
千波は即答した。そしてこう言い放った。
「特に嘘を真実に塗り替えようとする人間が、嫌い。」
その言葉に小鳥遊は驚いた。
千波には自分の全てが見透かされているようで、恐怖を感じた。
「だから私に関わらないで。」
きっぱりと千波は言って去っていった。
小鳥遊は数刻の間、その場に立っていた。
千波にはもうバレているのだろうか、俺はこれからどうなるんだ。
小鳥遊の心の中はぐちゃぐちゃだった。
本当の小鳥遊はいつも怯えていたのだ。"アノデキゴト"がバレないか…。
傍嶌島に来た理由は、自分のことを全く知らない所に逃げたかったからだ。
しかしやっとあの暗闇から逃げられたはずなのに、いつもすぐ後ろにある暗闇が自分を飲み込もうとしているように感じて、怯えていたのだ。
暗闇に居た頃は自分のことを知らない所に来れば、安心だと信じて疑わなかった。
しかし実際にはいつバレるのか、不安しかない。
あぁ、俺の世界は一生暗闇の中や傍なんだなと、小鳥遊は思った。
逃げても逃げても離れない暗闇に、小鳥遊は疲れていた。
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